サイト運営主の雑記

バレット博士の脳科学教室 7½章、メモ

身体予算管理のことを「アロスタシス」と呼ぶ。

脳の最も重要な仕事は、エネルギーの需要が生じる前に予測しておくことで、身体をコントロールする(アロスタシスを管理)ことにある。

心の病と呼ぶ状態は、直面している環境や他者のニーズ、あるいは将来の自己の利益と調和しないが短期的に合理的な身体予算管理に基づくものなのかもしれない。合理的な行動とは現状に見合った妥当な身体予算の投資を意味する。

脳はネットワークである

脳とは、一つの統合体として機能するべき相互接続された、いくつかの部位の集まり、すなわちネットワークである。神経伝達物質はシグナルがシナプス越しに伝達されるのを容易にしたり困難にしたりする。ネットワークの変化は、物理的な脳の構造が変化していないように見えたとしても、瞬時かつ継続的に起こっている。また、セロトニンやドーパミンのような化学物質は、ほかの神経伝達物質に作用して、その効果を強めたり弱めたりし、神経修飾物資と呼ばれる。神経修飾物質と神経伝達物質が合わさって、たった一つの脳が数兆もの活動パターンをとることを可能にしている。

また、比較的緩やかなネットワークの変化もあり、ニューロンが死んだり、新たに生まれたりする。ニューロン間の結合の数は増減し、ともに発火するニューロンは結合を強め、そうでなければ結合は弱まる。可塑性と呼ばれる。

たった一つの心の機能に特化したニューロンは存在しない。ただし機能によって関与の度合いは異なりうる。科学者が視覚皮質や言語ネットワークというような機能を示す名称を用いたとしても、その名称は当該の脳領域がたった一つの機能だけを果たすことを示すのではなく、それを口にした科学者の関心の焦点を反映しているにすぎない場合が多い。

空港内でいろいろな仕事が行われているように、いかなるニューロンも複数の仕事をこなせる。

自分の目の前にある物体に向けて手を延ばし、それからいったん手をひっこめて、もう一度正確に同じことをするというような単純な行為でさえ、複数回なされると、そのたびに異なるニューロン群が関与する。この現象を縮重と呼ぶ。

可塑性による緩慢な変化、神経伝達物質や神経修飾物質による迅速な変化、複数の仕事をこなせるニューロンの柔軟性などで脳の動的な活動が説明される。

小さな脳は外界に合わせて配線する

チューニングは木の枝のような形状をした樹状突起が生い茂り、木の幹にいた軸索が見えリンの外套を厚くすることを意味する。十分にチューニングされた結合が関与する神経パターンを再生しやすくなることを意味する。一方、あまり出番のない結合は次第に弱まり、やがて死ぬ。このプロセスはプルーニングと呼ばれる。使われない結合は代謝の面で負担になるからだ。

チューニングとプルーニングのプロセスは生涯続く。

乳児は注意の共有によって、環境のどの部分が重要でどこが不要かを徐々に学んでいく。やがて乳児の脳は、身体予算にかかわるものと無視できるものからなる独自の環境を構築できるようになる。この独自の環境を生態的地位(ニッチ)と呼ぶ。

多様な感覚をまとまった全体へと組み立てるプロセスは感覚統合と呼ばれる。

劣悪な環境の下で放置されて育った子どもの小さな脳は、保護者からの支援と、行動を通じて獲得する配線指示がないために、自分の身体予算を一人で何とか調節しようと自ら配線する可能性がある。このように組みあがったいびつな配線は、時がたつにつれて身体予算に対する有害な負担を蓄積して活き、のちになって心臓病、糖尿病、さらにはうつ病をはじめとする気分障害などの、代謝を基盤とする重大な病気を発症する危険性を高める。

長期にわたって一貫して改善することなく子供を放置していればほぼ間違いなく小さな脳に悪影響が及ぶ。アイコンタクトや言葉や肌の触れ合いを通じて、社会的ニーズを満たしてやる必要がある。

乳児の脳が正常な発達を遂げるために社会的入力や物理的入力に大きく依存しなければならないというのは非常にリスクが大き。ならばこのリスクを相殺するほどの何らかのの利点があるはずだ。確証はないが進化生物学や人類学の知見からは世代間における文化的社会的な知識の効率的な受け渡しを可能にする。つまり小さな脳のそれぞれが、自分が育つ特定の環境に最適化されることを可能にする。自分が享受している文化を言葉や行動を介して次世代に受け渡し彼らの脳を配線することでこのニッチを恒久化する。文化の継承と呼ばれるこのプロセスは質素かつ効率的である。

脳はほぼすべての行動を予測する

脳はどのように感覚データを解読して、次になすべきことを決めているのだろうか。脳が直近のあいまいな情報だけに頼っていれば、私たちは不確実なものに満ちた大洋の中で、最善の手段が見つかるまでもがきながら当てもなく漂っていなければならない。これに対する対応は記憶だ。脳はこれまで蓄積してきた過去の経験すなわち自分がじかに経験してきたことや友人や動画等の情報源から学んできたことを参照することができる。

神経科学者たちは日常の経験は、外界と身体に制約されながら最終的に脳によって構築された、注意深くコントロールされた幻覚であるという。ただし幻覚は自己の経験を生み出して行動を導いてくれる日常的な幻覚であり、脳が感覚データに意味を付与するための正常な手段なのである。

この構築プロセスは予測に基づいて実行される。まず一群のニューロンが脳がたった今喚起した過去や現在の出来事の組み合わせに基づいて、今すぐに起こるであろう出来事について最善の推測をする。次に推測したニューロン群は、そこで得た推測内容を他の脳領域に伝達して、そこのいあるニューロンの発火を変える。その間、外界と自己の身体からやってきた感覚データがこの会話に割って入り、予測が確認もしくは否定されることで、それが現実として経験される。予測により次の行動の準備を効率よく整える。

予測は実際の経験とは逆向きに生じる。通常まず感じてから行動すると考えているが、脳内では実のところ感覚は行動の後で生じる。脳は自分が気付く前に行動を開始するように配線されている。脳は予測する機関であり、過去の経験と現在の状況に基づいて気付かぬうちに次の一連の行動を開始する。いいかえると行動は記憶と環境のコントロールの下でなされる。これは自由意志の不在を意味するのか??自分の行動の責任はだれが負うのか??

似通った人々に囲まれて成人すると、脳はその種の類似性に基づいてチューニングやプルーニングを施され、それに基づいて人間の評価に関する予測を発するようになる。

あなたの脳はひそかに他人の脳と協調する

社会的動物であることの要件の一つとして、私たちが毎日利用している身体的な資源を脳が管理する方法、つまり周囲の人々と身体予算を相互に調整する点がある。私たちは生涯を通じて、他者の身体予算口座に対するある種の預金や引き出しをそれと知らずに行っている。他者と接している位置に、脳が少しずつチューニングされ、プルーニングされていく。

社会的動物出ることで様々な恩恵を受けている。一つは他社と緊密な協力関係を結ぶことで、寿命を延ばしたこと。お互いへの信頼に価値を置く環境で働く人々は身体予算への負荷が軽くなるので、その分節約できた資源を斬新なアイデアを生み出す力に振り向けられる。

文章を読むだけで体内で心拍数や呼吸、代謝、免疫系、ホルモン系などに影響がある。言葉を処理する脳領域の多くは、身体予算管理を支援している主要な組織を含め、体内もコントロールしている。他者が発した言葉はあなたの脳の活動と身体システムに直接的な影響を及ぼし、あなたの言葉は他者に同様な影響を及ぼす。

私たちは自分の行動や言葉を通して、周囲の人々の脳や身体に影響を及ぼしている。

脳が生む心の種類は一つではない

人一人の身体に宿る脳はその人が属する文化の下で発達を遂げて配線され、独自の心を生む。人間の心は脳と身体のやり取りから生じる。そして、各々の脳と身体は、物理的な世界に置かされて社会的な世界を作り出す、身体に囲まれた他者の脳に取り込まれている。

我々は様々な配線方法によって多様な心を生み出せるような脳の基本設計を備えて生まれてくる。

脳は誰にも共通する特徴を数多く備えている。しかし心に関してはそうは言えない。なぜなら心は、文化によってチューニングやプルーニングを施されるミクロの配線に部分的に依存しているからだ。

気分は自分の身体予算の帳尻があっているか赤字なのかを示唆してくれる。

あらゆる文化において、買い、深い、平穏、興奮を感じる心を生み出しているとはいえ、何がこのような感覚を引き起こすのかについては一致を見ていない。身体を調節する脳の働きは普遍的だったとしても、結果として生じる心的経験は普遍的ではない。

脳は現実を生み出す

抽象は脳が過去の経験の断片を要約して、物理的には異なる者同士が別のあり方では類似することを教えてくれる。抽象は高度に複雑化した人間の脳が、物理的な形態に基づくのではなく、機能に基づいた柔軟な予測を発することを可能にする。

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